観測隊員・イオタ



2026-02-09 17:56:45
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観測隊員・イオタ


 ある星の観測隊員の席が空いた。
 
 正確にはその観測隊員は現地の情勢に干渉し、独断で現地の知性体と融合し彼らに協力していくことを選んだらしい。前例のない事態だ。その観測隊員当人も含め、我々はこの星の観測を続ける必要があり、私は彼の後任者である。

 我々はこの星の時間に換算しておよそ七六八年三ヶ月二一日に一度近傍の他の観測隊員と情報を共有し定時報告をしなければならない。報告と言ってもこの星の知性体の社会のような口頭や書面ではない。我々の集めた情報は目に見えない意識のネットワークでつながり、然るべき時が来たら自動的に我々の間で共有される。我々は数多いるがそれぞれが個を持った群れではない。必要な観測結果を共有、集積できればよい。直接のコミュニケーションは不要だ。

 …………。

 かつて近傍の星の任についていた時、オメガの定時報告が私に共有されたことがある。だから、いつかこんなことになるのではないかと考えていた。

 彼の定時報告は対象に対する観測情報が極めて私情の挟まれた微視的なものだった。現地生命体の報告には決まって種名に加えて個体名の情報が付与されていたし、気候や環境に対する自身の感覚の情報も含まれている。おそらく彼自身気づいていなかったと考えられる。

 我々は極めて情報量の少ない文字のような簡素なもので観測結果を共有しない。それぞれが持つ神経を通して入力された五感の情報がデータとして共有される。それでも彼の報告には自身の好悪といったデータまで含まれ、この星の知性体で言うところの日記・日報に近い側面があった。

 …………。

 私の任は彼の後任としてのこの星の観測、そして現地の知性体と融合した異例の個体である彼当人の観測。彼が融合している先の現地の知性体個体が職務として行っていると見られる行動として「口頭や書面での報告」、「日記・日報」といったものを知った。彼がかつて共有してきた報告の様式はこれにかなり近い。

 彼は完全に観測隊員の任を解かれたわけではない。あくまで彼の独断の行動が今後どういった結果を及ぼすかのサンプルとして泳がされているだけだ。おそらく次回の定時報告の際にも彼の収集した情報は共有されるだろう。

 次の定時報告はこの星の時間に換算して六三年五ヶ月一二日後だ。
 彼の融合したのは生後二〇年前後の個体であり、この星の知性体の寿命は健康な個体であれば八〇年程度だったと記憶している。彼とその融合先の個体はその時どうなるのか、まだわからない。この星の知性体の特性を引き継いで次回の報告の際には生命としての限界を迎えているのか、我々の特性を引き継いで老いず朽ちず長大な時間を生き続けるのか。それはいずれわかることだ。

 次の彼の報告は期間に対して想定以上の情報量があるだろう。

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